CHAPTER 07 / COORDINATION
保護協調と短絡電流
事故が起きたとき、どこまでを止めて、どこを生かすのか。事故点に最も近い保護装置だけを動かす「選択遮断」の考え方を軸に、時間-電流特性の読み方、CTとOCR、地絡保護、そして前提となる短絡電流の考え方を整理します。
LEARNING GOALS
この章を読み終えたらできるようになること
- 選択遮断(保護協調)とは何か、なぜ上位との協調が必要かを説明できる
- 時間-電流特性のグラフで、上位側と下位側の曲線の上下関係が何を意味するかを読み取れる
- CT比の選び方の考え方と、OCRの限時要素・瞬時要素の役割の違いを説明できる
- 地絡保護におけるGRとDGRの違いと、もらい事故という現象を説明できる
- 短絡電流をなぜ計算するのかを述べ、本アプリの仮計算の前提と限界を説明できる
SECTION 01
保護協調とは「事故点に近い側だけを切る」こと
電気設備の事故は、起きないようにすることが第一ですが、それでも起きたときにどう振る舞うかを設計しておく必要があります。このとき目指すのは、「事故を起こした部分だけを切り離し、それ以外は生かし続ける」ことです。これを選択遮断と呼び、そのために保護装置の動作を調整しておくことを保護協調といいます。
たとえば、ある動力分電盤の先で短絡事故が起きたとします。理想的なのは、その分電盤の分岐遮断器だけが動作し、他の回路も、上流の低圧主幹も、高圧側の主遮断装置も動かないことです。もし高圧側のVCBが先に動作してしまえば、事故と関係のない照明や他の設備まで一斉に停電します。同じ事故でも、どこが動くかによって被害の範囲がまったく変わるのです。
- 01停電範囲を最小にする:事故点に最も近い保護装置だけを動作させる
- 02他の需要家へ波及させない:構内の事故で電力会社の配電線を停止させない
- 03後備(バックアップ)を残す:下位が動作しなかったときは上位が時間差をおいて動作する
- 04機器を壊さない:事故電流が流れ続ける時間を、機器が耐えられる範囲に収める
協調は構内だけの話ではありません。構内で起きた事故を構内で切り離せなければ、電力会社の配電用変電所の保護装置が動作し、同じ配電線につながる他の需要家まで停電させてしまいます。これがいわゆる波及事故です。引込区分開閉器(PAS/UGS)とSOG制御装置が構内の入口に置かれているのは、まさにこの上位との協調のためです。
SECTION 02
時間-電流特性と協調カーブの読み方
「下位が先に動く」を実現する道具が、時間-電流特性です。これは、ある大きさの電流が流れたときに保護装置が何秒で動作するかを表した曲線で、横軸に電流、縦軸に動作時間をとります。両軸とも対数目盛で描かれるのが一般的です。
曲線は右下がりの形になります。電流が小さいうちは動作までに時間がかかり、電流が大きくなるほど早く動作するという特性です。過負荷のようにゆっくり進む異常には時間をかけて、短絡のように危険な大電流には素早く反応する、という考え方がこの形に表れています。
FIG. COORDINATION
複数の保護装置の特性を1枚のグラフへ重ねて描いたものを協調カーブと呼びます。読み方の要点は単純で、「同じ電流のところで縦に見たとき、下位側の曲線が上位側より下にあるか」を確認することです。下にあるということは、その電流で下位のほうが早く動作するということです。上下が交差してしまう電流の範囲があれば、そこでは協調がとれていない可能性があります。
| 見るところ | 確認したいこと |
|---|---|
| 上下関係 | 想定する事故電流の範囲で、下位側の曲線が上位側より下にあるか |
| 時間差 | 上位と下位の間に、遮断が完了するまでの余裕を含めた時間差があるか |
| 曲線の交差 | ある電流の範囲だけ上下が逆転していないか |
| 機器の耐量曲線との関係 | 変圧器やケーブルが耐えられる範囲の内側で動作が完了するか |
| 励磁突入電流との関係 | 変圧器を投入した瞬間の突入電流で、保護装置が不要に動作しないか |
SECTION 03
CTとOCR:過電流をどう検出するか
CB形の受電設備では、高圧回路に流れる電流を変流器(CT)で小さな電流へ変換し、それを過電流継電器(OCR)が監視します。設定した条件を超えたとOCRが判断すると、真空遮断器(VCB)へ動作指令を出し、VCBが回路を遮断します。検出する役目と、切る役目が分かれているのがCB形の特徴です。実物では、次のイメージのようにドーナツ形のCTに主回路の導体を貫通させ、その二次配線が盤面のOCRへつながっています。
PHOTO (AI GENERATED IMAGE)

FIG. CT & OCR IMAGE
CT比の選び方には、大きく2つの前提があります。ひとつは、通常運転で流れる電流を正しく測れること。もうひとつは、その電流に対して余裕(裕度)を持つことです。受電設備の高圧側電流は、設備容量と6.6kVから概算できます。そのうえで、将来の増設や負荷の変動を見込んだ裕度を掛け、標準的なCT比の中から選ぶ、という順序で考えます。
本アプリでも、変圧器容量の合計から高圧一次電流を概算し、1.2倍の裕度を満たす標準CT比を候補として表示します。ただしこれは、需要率や将来増設、負荷の実態、保護協調の成立を反映していない機械的な候補表示にすぎません。表示は「要確認」の扱いとし、CT比を確定するものではありません。
OCRには、動作の性格が異なる2つの要素があります。限時要素は、電流が大きいほど早く動作する反限時特性を持ち、主に過負荷と、比較的小さな事故電流を受け持ちます。瞬時要素は、あらかじめ決めた大きな電流を超えたときに時間をおかず動作するもので、短絡のような大電流を素早く切るためのものです。
| 要素 | 受け持つ事象 | 動作の性格 | 整定で気をつけること |
|---|---|---|---|
| 限時要素 | 過負荷、比較的小さな事故電流 | 電流が大きいほど早く動作する(反限時) | 常用の負荷電流では動作せず、下位の保護装置との時間差を確保すること |
| 瞬時要素 | 短絡のような大電流 | 整定値を超えると時間をおかず動作する | 変圧器の励磁突入電流や電動機の始動電流で不要に動作しないこと |
整定は、これらの要素を組み合わせて決めます。ただし、整定値は構内の都合だけで決められるものではありません。上位である電力会社の配電線側の保護と協調している必要があるため、最終的には電力会社との協議によって決定されます。本アプリが表示するOCR整定値も、CT比から機械的に比率を掛けた参考表示であり、協議前の叩き台という位置づけです。
SECTION 04
地絡保護:GRとDGR、そして「もらい事故」
短絡が「電線どうしがつながってしまう事故」であるのに対し、地絡は「電線と大地がつながってしまう事故」です。ケーブルの絶縁劣化、小動物の侵入、施工時の傷などが原因になります。地絡電流は短絡電流ほど大きくないため、過電流を見ているOCRでは検出できません。そこで、地絡専用の保護が必要になります。
地絡の検出には、零相変流器(ZCT)を使います。健全なときは三相の電流の和がゼロになりますが、地絡が起きるとその和にずれが生じます。このずれ(零相電流)をZCTで捉え、地絡継電器(GR)が動作します。
ここで問題になるのが、方向性を持たないGRの弱点です。零相電流の大きさだけを見ていると、自分の構内で起きた地絡なのか、同じ配電線につながる他の需要家で起きた地絡なのかを区別できません。他人の構内の事故で自分の構内の開閉器が動作して停電してしまう、というのが「もらい事故」と呼ばれる現象です。
これを避けるために使われるのが、地絡方向継電器(DGR)です。DGRはZCTで捉えた零相電流に加えて、零相基準入力装置(ZPD/ZVT)から得た零相電圧も取り込み、両者の位相関係から「電流が構内へ向かっているのか、構外へ向かっているのか」を判別します。構内向きのときだけ動作させることで、もらい事故による不要動作を防ぎます。
| 観点 | GR(地絡継電器) | DGR(地絡方向継電器) |
|---|---|---|
| 検出に使う情報 | 零相電流(ZCT) | 零相電流(ZCT)と零相電圧(ZPDなど) |
| 方向の判別 | 行わない | 位相関係から構内・構外を判別する |
| もらい事故 | 構外の地絡で不要動作するおそれがある | 構外向きの地絡では動作しないようにできる |
| 構成 | 比較的簡素 | 零相電圧の検出装置が追加で必要になる |
実際にどちらを適用するかは、ケーブルこう長(構内の対地静電容量の大きさ)、電力会社の要求、周辺の系統状況などによって判断されます。地中引込でケーブルが長い構内では、対地静電容量による充電電流が大きくなり、もらい事故のリスクが高まるため、DGRが求められることが一般的です。
SECTION 05
短絡電流をなぜ計算するのか
保護協調の検討も、機器の選定も、「事故が起きたらどれくらいの電流が流れるのか」が分からなければ始まりません。短絡電流の計算は、その出発点になります。目的は大きく3つあります。
- 01遮断できるか:遮断器やヒューズが、その電流を安全に遮断できる能力(定格遮断電流・遮断容量)を持っているかを確認する
- 02壊れないか:機器や導体が、遮断が完了するまでの短い時間、熱的・機械的な力に耐えられるかを確認する
- 03協調できるか:保護装置がその電流でどう動作するかを、協調カーブの上で確認する
熱的耐量と機械的耐量という言葉が出てきました。短絡電流が流れると、導体は一瞬で発熱します(熱的な影響)。同時に、隣り合う導体の間には大きな電磁力が働き、母線やケーブルを引きはがそうとします(機械的な影響)。どちらも、電流の大きさと流れ続ける時間の組み合わせで決まるため、保護装置が何秒で切るかという話と切り離せません。
計算の考え方として広く使われるのが%インピーダンス法です。基準となる容量を決め、電源側や変圧器のインピーダンスを、その基準容量に換算した百分率(%Z)で表します。こうすると、電圧の異なる区間をまたぐ計算でも、単純な足し算で合成インピーダンスを求められるようになります。合成した%Zから短絡容量を求め、そこから短絡電流を導きます。
| 求めるもの | 考え方 |
|---|---|
| 受電点の三相短絡電流 | 電力会社から示される受電点短絡容量を、6.6kVの三相回路として電流へ換算します |
| 電源側のインピーダンス | 受電点短絡容量を基準容量へ換算して%Zとして扱います。未入力のときは0(無限大母線)として扱います |
| 変圧器のインピーダンス | 自己容量基準の%Zを基準容量へ換算します。未入力のときは容量に応じた参考値で補います |
| 変圧器二次側の短絡電流 | 電源側と変圧器の%Zを合成し、短絡容量を求めてから低圧側の電流へ換算します |
本アプリもこの考え方で短絡電流の仮計算を行いますが、実務の正式計算と比べると割り切った前提を置いています。前提を知らずに数値だけを受け取ると誤解のもとになるため、限界を明示しておきます。
- 対称三相短絡電流(実効値)のみを扱い、直流分を含む非対称電流は考慮していません
- ケーブル・母線・接続部のインピーダンスを考慮していません。実際の短絡電流はこれより小さくなります
- 電動機からの短絡電流の寄与を考慮していません
- 単相3線式は線間210V換算の簡易計算であり、100V/200V負荷の配分は反映していません
- 受電点短絡容量が未入力のときは電源側インピーダンスを無視(無限大母線仮定)します
- 変圧器の%Zが未入力のときは容量に応じた参考値で補うため、実機の値とは異なります
これらの前提は、いずれも短絡電流を大きめに見積もる方向(安全側)に働きます。したがって、遮断容量の当たりをつける目的にはある程度使えますが、機器仕様を確定する根拠にはなりません。本アプリが短絡電流に関する結果をすべて「要確認」としているのは、この理由によります。
SECTION 06
「要確認」の意味と本章のまとめ
本アプリは、CT比の候補やOCR整定の参考値、短絡電流の概算といった数値を表示します。それでも、これらを自動で確定しないのはなぜでしょうか。理由は、この章で見てきたとおり、値が構内の条件だけでは決まらないからです。
- 整定値は上位(電力会社)の保護との協調が前提であり、協議を経なければ決まらない
- 遮断容量は受電点短絡容量に依存し、その値は電力会社から示される
- 機器の実際の特性・耐量はメーカー資料によって異なる
- 負荷の実態、将来増設、運用方針は、入力欄に収まりきらない現場の情報である
- 誤った整定は、波及事故や機器損傷という取り返しのつかない結果につながり得る
つまり「要確認」は、計算が未完成であることを示す印ではありません。この値は人が判断して決める領域だ、という設計上の線引きを表しています。叩き台として数値を示しつつ、確定は専門家に委ねる。この分担が崩れないようにするための表示です。
- 01保護協調とは、事故点に最も近い保護装置だけを動作させる選択遮断を成立させること
- 02協調は構内の上下関係だけでなく、上位である電力会社の保護との間でも必要になる
- 03時間-電流特性では、同じ電流に対して下位側の曲線が下にあることを確認する
- 04CT比は定格電流と裕度から考え、OCRは限時要素と瞬時要素を組み合わせて整定する
- 05地絡はZCTで検出し、もらい事故を避けるために方向性を持つDGRが用いられる
- 06短絡電流は遮断容量・熱的および機械的耐量・保護協調の前提として計算する
- 07本アプリの仮計算は前提を割り切った安全側の概算であり、確定値ではない
次の章では、ここまで学んだ内容を実際の設計の流れの中に置き直します。どの段階で何を決め、どこで電力会社と協議し、どこでレビューを受けるのか。全体の手順として整理します。
DIAGRAM EXPLORER
保護にかかわる機器を図の上で確認する
CB形・変圧器2台構成の単線結線図です。検出する機器と、実際に切る機器がどこに置かれているかを確認してください。表示している構成は叩き台であり、整定値・遮断容量・保護協調の成立を確定するものではありません。
用語を選ぶと、図の中の位置と役割を確認できます
上の用語ボタンを選ぶと、その機器の役割の説明が表示され、 下の単線結線図で対応する図記号が強調されます。
この図はJIS C 0617を参考にした簡略表示です。正式図面ではありません。図記号・接続・機器仕様・保護協調は、 設計者および主任技術者の確認が必要です。
CHECK YOUR UNDERSTANDING
理解度チェック
全5問。選択するとその場で正誤と解説が表示されます。
Q01保護協調(選択遮断)の目的として最も適切なものはどれですか。
Q02時間-電流特性のグラフで、保護協調がとれている状態はどのように見えますか。
Q03OCRの瞬時要素の役割として正しいものはどれですか。
Q04地絡方向継電器(DGR)が地絡継電器(GR)より優れている点はどれですか。
Q05本アプリの短絡電流仮計算の前提として、正しい説明はどれですか。
ANSWERED 0 / 5
※ 実務適用時は関係法令・規格・メーカー資料・主任技術者の確認が必要です。
PRACTICE
手を動かして確かめる
REVIEW REQUIRED
本章の内容をそのまま実設計へ適用しないでください
本章は概念理解のための解説です。数値や適用条件は目安であり、個別案件の設計値ではありません。 実務では関係法令・規格・メーカー資料を確認し、電力会社との協議および 電気主任技術者・設計者のレビューを受けてください。