CHAPTER 01 / BASICS
なぜ高圧で受電するのか
ある規模を超えると、建物は自分の敷地に受電設備を持つことになります。送配電のしくみ、電圧区分、電気料金、保安体制という4つの角度から、高圧受電が必要になる前提を整理します。
LEARNING GOALS
この章を読み終えたらできるようになること
- 低圧・高圧・特別高圧の電圧区分を、交流の電圧値とあわせて説明できる
- 電気が高い電圧で運ばれてくる理由を、送電損失の考え方と結びつけて説明できる
- 契約電力・デマンド・力率が電気料金にどう関わるかの基本を説明できる
- 自家用電気工作物と電気主任技術者の関係を説明できる
- キュービクル式と開放形の違いと、キュービクル式が選ばれやすい理由を説明できる
SECTION 01
電気は「高い電圧」で運ばれてくる
発電所で作られた電気は、そのままの電圧で私たちの手元まで届くわけではありません。途中で何度も電圧を変えながら運ばれてきます。まず送電のために非常に高い電圧へ上げ、消費地に近づくにつれて段階的に下げていきます。高圧受電設備の話は、この「下げていく途中の最後のひと区切りを、需要家が自分で持つ」という点から始まります。
FIG. POWER FLOW
なぜわざわざ電圧を上げるのでしょうか。同じ電力を送る場合、電圧を高くするほど電流は小さくなります。電線で失われる電力は電流の2乗に比例するため、電流が小さいほど送電損失は小さくなり、電線も細くて済みます。長い距離を運ぶには、高い電圧のほうが圧倒的に有利なのです。
一般の住宅や小さな店舗では、電柱の上に載っている柱上変圧器が6.6kVを100V/200Vへ落として供給しています。これが低圧受電です。しかし使用する電力が大きくなると、柱上変圧器からの供給では容量が足りず、電圧の変動も大きくなってしまいます。そこで、6.6kVのまま敷地の中へ引き込み、自分の敷地に置いた変圧器で低圧へ落とす方式に切り替わります。これが高圧受電です。
つまり高圧受電設備とは、「電力会社が担っていた最後の降圧を、需要家が自分の構内で行うための設備一式」だと考えると理解しやすくなります。引き込む、計量する、保護する、降圧する、低圧側へ分ける。これらをまとめて受け持つのが、後の章で扱うキュービクルです。
SECTION 02
低圧・高圧・特別高圧という区分
電気設備に関する技術基準では、交流の電圧を大きく3つに区分しています。この区分は、必要な設備、取り扱える資格、適用される規程などに影響するため、最初に押さえておきたい枠組みです。
| 区分 | 交流の電圧範囲 | 身近な例 |
|---|---|---|
| 低圧 | 600V以下 | 一般家庭・小規模テナントの100V/200V |
| 高圧 | 600Vを超え7,000V以下 | 6.6kV配電線から受電する工場・ビル・店舗 |
| 特別高圧 | 7,000Vを超えるもの | 22kV・66kVなどで受電する大規模施設 |
FIG. VOLTAGE CLASS
低圧受電から高圧受電へ移る目安として、一般的には契約電力がおおむね50kW程度と言われます。これはあくまで目安であり、実際にどの契約になるかは、電力会社の供給条件、地域、契約種別、既設設備の状況などによって変わります。設計の初期段階では「このくらいの規模から高圧を検討する」という感覚をつかむための数字として捉えてください。
SECTION 03
契約電力・デマンド・力率と電気料金
高圧受電を検討する場面では、設備の話と同時に料金の話が必ず出てきます。高圧の電気料金は、大きく「基本料金」と「電力量料金」に分かれるのが一般的です。基本料金は契約電力に単価を掛けて決まり、電力量料金は実際に使った電力量(kWh)に応じて決まります。
ここで重要なのが、契約電力の決まり方です。高圧の小口では「実量制」と呼ばれる方式が広く使われています。実量制では、30分ごとの平均電力(これをデマンド、最大需要電力と呼びます)を計測し、当月とそれ以前の11か月の中の最大値が、その月の契約電力になります。つまり、1年のうちたった一度でも大きなピークを出すと、その値が1年間の基本料金に効いてしまうのです。
- 大きな機器の始動タイミングが重ならないよう、運転の順番をずらす
- デマンド監視装置で、目標値に近づいたときに警報や自動制御を行う
- 空調・生産設備など、止めても支障が小さい負荷をピーク時に絞る
- 設備更新のときに、効率の良い機器へ置き換えてピーク自体を下げる
もうひとつ料金に効くのが力率です。力率が良い(無効電力が少ない)ほど基本料金が割り引かれる制度が一般的に採用されています。高圧受電設備に高圧進相コンデンサ(SC)を設ける動機のひとつが、この力率改善です。力率の考え方そのものは、後の章でベクトル図とあわせて詳しく扱います。
SECTION 04
自家用電気工作物と保安体制
高圧で受電するということは、構内の高圧設備を自分で持つということです。この設備は電気事業法上「自家用電気工作物」に位置づけられ、設置者自身が保安の責任を負います。低圧受電のときは電力会社側にあった責任範囲の一部が、需要家側へ移ってくると考えるとイメージしやすいでしょう。
そのため、自家用電気工作物には電気主任技術者を選任し、保安の監督を行わせる必要があります。ただし、小規模な需要家が自社で有資格者を抱えるのは現実的でないことも多いため、保安管理業務を外部に委託し、承認を受けて選任に代える運用(外部委託承認制度)が広く使われています。どちらの形をとるにせよ、「誰が保安を見るのか」が決まっていない状態で高圧受電設備を持つことはできません。
実際の運用では、保安規程を定めて届け出たうえで、それに沿って点検を行います。一般的には、通電したまま外観や測定を行う月次点検と、停電して絶縁抵抗測定・清掃・動作確認などを行う年次点検を組み合わせます。年次点検は構内を停電させるため、事業の都合と調整しながら計画する必要があります。
- 点検・操作のためのスペースと通路を確保できているか
- 停電作業を行うとき、どの範囲を止めることになるか
- 施錠・立入管理など、無資格者が充電部へ近づけない管理ができるか
- 接地の種類と施工方法が、保安上の要求と整合しているか
- 事故時に構内を切り離す引込区分開閉器の仕様が、電力会社の要求と合っているか
SECTION 05
キュービクル式と開放形
高圧受電設備の形態は、大きくキュービクル式と開放形に分けられます。キュービクル式は、遮断器・変圧器・計器などを金属製の箱(キュービクル)へまとめて収めたものです。開放形は、電気室の中でフレームや架台に機器を組み上げ、充電部が露出した状態で構成するものです。まず、街でよく見かけるキュービクルの外観イメージを見てみましょう。ビルの屋上や建物脇のフェンスの中にある、この鋼板製の箱が高圧受電設備です。
PHOTO (AI GENERATED IMAGE)

FIG. CUBICLE EXTERIOR IMAGE
| 観点 | キュービクル式 | 開放形 |
|---|---|---|
| 設置場所 | 屋外・屋上・敷地内へ据え付けやすい | 専用の電気室を計画する必要がある |
| 安全性の考え方 | 充電部が金属箱に収まり、施錠で立入を管理しやすい | 充電部が露出するため、離隔と立入管理の比重が大きい |
| 製作・施工 | 工場で製作・試験してから搬入するため現地工期が短い | 現地での組立・調整の比重が大きい |
| 拡張性 | 盤の寸法・構成に制約を受けやすい | スペースがあれば比較的自由に構成しやすい |
中小規模の需要家では、設置のしやすさと安全管理のしやすさから、キュービクル式が広く使われています。キュービクル式高圧受電設備にはJIS C 4620などの規格があり、外箱の構造、内部の離隔、扉の施錠などについての考え方が整理されています。本アプリも、6.6kV・1回線・キュービクル式を前提とした構成を扱います。
SECTION 06
本章のまとめ
- 01電気は送電損失を減らすため高い電圧で運ばれ、消費地の近くで段階的に降圧される
- 02交流は低圧(600V以下)・高圧(600V超7,000V以下)・特別高圧(7,000V超)に区分される
- 03契約電力がおおむね50kW程度を目安に、低圧受電から高圧受電の検討へ移る(境界は電力会社の供給条件による)
- 04高圧の契約電力は実量制でデマンドから決まることが多く、力率も料金に影響する
- 05高圧受電設備は自家用電気工作物であり、電気主任技術者による保安監督が前提になる
- 06中小規模ではキュービクル式が一般的で、本アプリも6.6kV・1回線・キュービクル式を前提とする
次の章では、実際にキュービクルの中へ入っていきます。引込から低圧配電までに何がどの順番で並ぶのか、そしてそれを1本の線で描く単線結線図をどう読むのかを扱います。
CHECK YOUR UNDERSTANDING
理解度チェック
全4問。選択するとその場で正誤と解説が表示されます。
Q01低圧受電から高圧受電へ移る目安として、一般的に言われる契約電力はおおよそどのくらいですか。
Q02交流における「高圧」の電圧範囲はどれですか。
Q03高圧の小口で広く使われている実量制では、契約電力は一般にどのように決まりますか。
Q04高圧受電した構内の電気設備(自家用電気工作物)の保安について、正しい説明はどれですか。
ANSWERED 0 / 4
※ 実務適用時は関係法令・規格・メーカー資料・主任技術者の確認が必要です。
PRACTICE
手を動かして確かめる
REVIEW REQUIRED
本章の内容をそのまま実設計へ適用しないでください
本章は概念理解のための解説です。数値や適用条件は目安であり、個別案件の設計値ではありません。 実務では関係法令・規格・メーカー資料を確認し、電力会社との協議および 電気主任技術者・設計者のレビューを受けてください。